やまはる

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名前を呼ばれる日

朝から、城の中はいつもと違っていた。 普段より多くの側仕えが出入りし、衣装の皺や髪飾りの位置を何度も確認している。鏡の前に座るマイネリーネは、落ち着かない様子で自分の白い衣装を見下ろした。「リーゼレータ」「はい、姫様」「今日のわたくしは、き...
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姫様のお気に入り

洗礼前の子どもは、公の場へ出ることがない。 領主一族の御子であっても、限られた養育者と家族に囲まれて過ごし、洗礼式を迎えるまでは正式な社交も行わない。それが貴族の常識である。 けれど、アウブ・アレキサンドリアの私室では、その常識が少しばかり...
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増える家族と増える心配事

医師が退出した後、フェルディナンドはすぐさま側近たちを集めた。 ただし、懐妊についてはまだ確定したばかりである。安定するまでは必要最低限の者にしか知らせず、アウブの体調不良として予定を調整する――というのが、彼の方針だった。「よいか。この件...
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ローゼマイン視点 いつもの体調不良ではありません

その日、わたくしは同じ一文を三度読んでいた。 文字はきちんと目に入っている。意味も難しくない。それなのに次の行へ進む頃には、先ほど読んだ内容が頭から抜け落ちてしまう。 おかしいですね、と小さく首を傾げていると、向かい側で書類を確認していたフ...
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リーゼレータ視点 変わったものと変わらないもの

アレキサンドリアの城で過ごすようになってから、わたくしは時折、不思議な感覚に襲われる。主であるローゼマイン様を取り巻くものは、何もかもが変わった。領地が変わった。お城が変わった。お仕えする者達の顔触れも変わった。何より、ローゼマイン様ご自身...
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今夜はあなたを優先します

寝台へ入ってから、どれほどの時間が経っただろう。 フェルディナンドは隣に横たわるローゼマインへ、ちらりと視線を向けた。 彼女の手には、今夜も本がある。 寝台へ本を持ち込むことを許した覚えはない。だが、取り上げれば不満そうに頬を膨らませる。そ...
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腕の中の居場所

「ローゼマイン。いい加減、本を閉じなさい」 すぐ隣から落ちてきた低い声に、ローゼマインは頁から目を離さないまま答えた。「あと少しです。ここで章が終わりますから」「先ほども同じことを聞いた」「先ほどとは違う章です」 返事の代わりに、手元から本...
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観察対象、アウブ・アレキサンドリア

――フェルディナンド視点夜も深くなり、執務室には二人分の呼吸と紙を捲る音だけが残っていた。側近達はすでに下がらせている。机の上に積まれていた報告書も大半は片付き、残っているのは明日に回しても支障のないものだけだ。それでもローゼマインは席を立...
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ただ一人の空白

「……ローゼマイン」低く呼びかける声に、ローゼマインはゆっくりと目を開いた。見慣れぬ天蓋。薬草の匂い。自分を覗き込む、ひどく整った顔立ちの男性。淡い金色の瞳には、普段の彼からは到底考えられないほど切迫した光が浮かんでいる。「気分はどうだ。痛...
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おかえりの順番

ルッツが街を出てから、二十日が経った。 隣街に新しくできた工房を確認し、紙の取引について話をまとめてくる。ベンノさんから聞いた予定では、戻るのは明日の夕方だ。 だから、別に待っているわけではない。 わたしは窓際の机に座り、次に印刷する本の原...