ある日の苦しんでる子
その子を見つけたのは、春の終わりのよく晴れた日だった。
市場で買い物を終えたマインとルッツは、紙束と食料を抱えて工房へ戻る途中だった。
「だから、これ以上は持てないって言っただろ」
「でも、あのお店のインクは今日だけ安かったんだよ。買わない方が損でしょう?」
「予定にない物を買って荷物を増やすなって言ってんだよ」
「紙とインクは予定になくても必要な物です」
「お前にとってはな」
いつものように言い合いながら大通りを外れた時、細い路地の奥から、小さな呻き声が聞こえた。
マインの足が止まる。
「……今、何か聞こえなかった?」
「猫じゃないのか?」
「違う。子どもの声だった」
荷物をルッツへ押し付け、マインは路地へ駆け込んだ。
「おい、マイン! 一人で行くな!」
石壁に挟まれた暗い路地の奥。
壊れた木箱とぼろ布の陰に、幼い子どもが蹲っていた。
年は五つか六つくらいだろうか。伸び放題の淡い茶色の髪。泥で汚れた頬。擦り切れた服から覗く手足は、ひどく細い。
その小さな体が、苦しそうに震えている。
「大丈夫?」
マインが近づくと、子どもは怯えたように身を縮めた。
「来ないで……」
「怖いことはしないよ。どこか痛いの?」
「熱い……」
掠れた声が漏れる。
「体の中が、ずっと熱い。苦しい……」
その言葉を聞いた瞬間、マインの呼吸が止まった。
目の前の路地が消え、幼い頃に何度も見た暗い天井が蘇る。
内側から焼かれるような熱。
身体の奥底で荒れ狂い、意識も何もかも呑み込んでいく力。
死にたくないと泣きながら、必死で押し込めた。
あの日の、身食いの熱。
「マイン?」
追いついたルッツが呼びかける。
けれど、マインは答えられなかった。
震える子どもの瞳の奥で、淡い光がゆらりと揺れる。それを目にしたルッツの顔色も変わった。
「……まさか」
「ルッツ。この子、身食いだよ」
呟く声が震えた。
子どもの体が大きく跳ねる。
「う、ぁ……熱い……母さん、助けて……」
「大丈夫。大丈夫だからね」
マインは子どもの前へ膝をついた。
だが、伸ばそうとした手が震えている。
ルッツは抱えていた荷物を放り出すと、その手を強く掴んだ。
「マイン。オレを見ろ」
「でも、この子が――」
「助けるんだろ?」
真っ直ぐな緑の瞳に見つめられ、マインは息を呑む。
「昔のお前とは違う。今は魔術具がある。神殿長も、神官長もいる。オレもいる」
握られた手から温もりが伝わってくる。
「だから、一人であの頃に戻るな。今できることを考えろ」
ルッツの声が、過去へ引きずられかけたマインを現在へ連れ戻す。
マインは一度目を閉じ、大きく息を吸った。
「……うん」
首に下げた革紐を引き出す。
その先には、青い魔石の嵌まった小さな魔術具があった。マインの魔力を逃がすために神官長が作った物で、満ちれば工房にある別の石と取り替えることになっている。
幸い、今朝交換したばかりだ。
「この石を握って」
子どもの手を取り、魔術具を包ませる。
「嫌……怖い……」
「大丈夫。これは、あなたの中の熱を吸い取ってくれる物だよ」
「本当?」
「本当。わたしも、小さい頃に同じ熱で苦しんでいたの」
子どもの瞳が、わずかに開かれる。
「お姉ちゃんも?」
「うん。だから、あなたの苦しいのがわかるよ」
マインは小さな手を両手で包んだ。
「もう少しだけ頑張って。絶対に一人にしないから」
しばらくすると、透明だった魔石へ淡い黄色の光が流れ込み始めた。
荒かった子どもの呼吸が、少しずつ穏やかになる。
その様子を確認したルッツは立ち上がり、路地の入口で様子を窺っていた店の見習いへ声を飛ばした。
「ギルベルタ商会へ走れ! 旦那様に、至急神殿へ使いを出してくれと伝えろ。マインと同じ病の子を見つけたって言えばわかる!」
「はい!」
見習いが駆けていく。
ルッツは次に、子どもの傍らに落ちていたぼろ布と、小さな木椀へ目を向けた。
「親はどこだ?」
尋ねると、子どもは薄く目を開いた。
「母さん……お仕事に行くって……」
「いつ?」
「……わかんない。ここで待っててって」
木椀は空で、周囲に食べ物はない。
何日ここにいたのだろう。
ルッツの奥歯が、ぎり、と鳴った。
マインは何も言わず、子どもの汚れた頬を撫でる。
熱に浮かされた瞳が、マインを見つめた。
「お姉ちゃん……行かない?」
「行かないよ」
「本当に?」
「本当。ずっとここにいる」
安心したように目を閉じると、子どもの体から力が抜けた。
マインが慌てて抱き留める。
「ルッツ!」
「気を失っただけだ。息はしてる」
ルッツはマインの腕から子どもを受け取ると、慎重に抱き上げた。
あまりの軽さに、表情が険しくなる。
「家へ連れて帰るぞ」
「でも、お母さんが戻ってくるかもしれないよ」
「ここに人を残す。戻ってきたら、ギルベルタ商会へ来るよう伝えてもらう」
「……うん」
ルッツは子どもを抱いたまま、マインへ手を差し出した。
「帰るぞ、マイン」
差し出された手を見つめながら、マインはその場から動けなかった。
「ルッツ」
「何だ?」
「この子を助けたい」
「だから今、助けてるだろ」
「そうじゃなくて……今日の熱を下げるだけじゃなくて、この先も」
言葉にすると、もう後戻りできないような気がした。
「神殿へ連れていけば、魔力を捧げる代わりに生きられるかもしれない。でも、この子はまだ小さいし、一人で神殿に入ることになる。もし、お母さんが戻ってこなかったら……」
マインの声が詰まる。
「この子を、うちへ連れて帰りたい」
ルッツは黙ってマインを見つめた。
困らせていることはわかっている。
魔術具は高価だ。神殿との交渉も必要になる。食費も服も寝床も、全て用意しなければならない。
何より、二人だけの生活が変わってしまう。
「ごめん。急にこんなことを言われても――」
「お前は、オレが反対したらこの子を置いて帰れるのか?」
「……帰れない」
「だろうな」
ルッツは深い溜息を吐いた。
「だったら、最初から二人でできる方法を考えるぞ」
マインが顔を上げる。
「いいの?」
「良いかどうかは、まだわからない。親が戻ってくるかもしれないし、神官長が何て言うかもわからない」
ルッツは眠る子どもを抱き直した。
「けど、少なくともこいつが自分で選べる年になるまでは、生きていられるようにする」
その言葉に、目の奥が熱くなる。
マインは差し出されたままだったルッツの手を、両手で握った。
「ありがとう、ルッツ」
「まだ礼を言うな。これから死ぬほど忙しくなるぞ」
「わかってる」
「夜中に熱を出すかもしれない」
「わたしが傍にいるよ」
「お前まで一緒に倒れるなよ」
「その時は、ルッツが二人まとめて看病して」
「最初からオレ頼みかよ」
呆れながらも、ルッツは繋いだ手を離さなかった。
二人で路地を出る。
その途中、ルッツの腕の中で子どが小さく身じろぎした。
「……ここ、どこ?」
「もうすぐ家だ」
ルッツが答えると、半ば閉じていた瞳がわずかに開いた。
「ぼくの……家?」
ルッツは一瞬、言葉に詰まる。
マインは子どもの顔を覗き込み、安心させるように笑った。
「今は、わたし達の家。一緒に帰ろう」
子どもは二人を交互に見つめると、再び目を閉じた。
その小さな手は、マインの指をしっかりと掴んでいた。
子どもが次に目を覚ました時、見知らぬ天井があった。
路地裏の石壁でも、雨漏りの染みが広がる家の天井でもない。きれいに磨かれた木の板が、規則正しく並んでいる。
体を起こそうとすると、手の中で硬い物が動いた。
青い石のついた魔術具。
そして、もう片方の手には温かな指が触れていた。
「……お母さん?」
声を出すと、寝台の横で舟を漕いでいたマインが顔を上げた。
「起きたの?」
金色の瞳が、安堵したように細められる。
「お母さん……じゃない」
子どもの顔が曇る。
マインは少しだけ胸を痛めながら、それでも穏やかに笑った。
「うん。わたしはマイン。あなたを路地で見つけたの」
「ここ、どこ?」
「わたしとルッツの家だよ」
「ルッツ?」
「あなたを抱いて帰ってくれた人。今は、神殿へ行ってる」
子どもはぼんやりとマインを見つめた。
「お母さんは?」
「……まだ、見つかっていないの」
小さな指が魔術具を強く握る。
「お母さん、仕事に行っただけだよ。待っててって言ったもん」
「そうだね。だから、戻ってきた時にわかるように、あの場所には人を残してあるよ」
「帰らなきゃ」
起き上がろうとした体が、大きく傾ぐ。
マインは慌てて抱き留めた。
「今はまだ駄目。熱が下がったばかりなの」
「でも、お母さんが戻ってきたら、ぼくがいないって……」
「大丈夫。必ずここへ連れてきてもらうから」
背中をゆっくり撫でる。
細い体は、服越しでも骨の形がわかるほど痩せていた。
「あなたのお名前を聞いてもいい?」
しばらく返事はなかった。
やがて、マインの胸元から小さな声が聞こえた。
「……ニルス」
「ニルス?」
「お母さんが、そう呼んでた」
「そっか。良い名前だね」
マインがその名を繰り返すと、ニルスは不思議そうに顔を上げた。
「忘れない?」
「忘れないよ」
「本当に?」
「本当。ニルスの大切な名前だもの」
そこへ、扉の開く音がした。
「戻ったぞ、マイン」
寝室へ入ってきたルッツは、起きているニルスを見て足を止める。
片手には神殿から借り受けた魔術具、もう片方には薬と食料が入った袋を抱えていた。
「目が覚めたのか」
ニルスがマインの服を掴み、警戒するようにルッツを見つめる。
「この人が、ルッツだよ」
「……あの兄ちゃん?」
「そう。ニルスをここまで運んでくれたの」
ルッツは寝台の傍へ荷物を置くと、ニルスの手にある魔術具を確認した。
「まだ少し光ってるな。もうしばらく持ってろ」
「これ、取ったら駄目?」
「今は駄目だ。お前の中にある熱を吸ってくれてる」
「兄ちゃんも、これ使うの?」
「オレは使わない。使うのはマインとお前だけだ」
ニルスは少し考えてから、魔術具を握り直した。
「……ぼく、ニルス」
「聞こえてた。オレはルッツだ」
「ルッツ兄ちゃん?」
「ああ。それでいい」
ルッツはニルスの頭へ手を伸ばしかけ、怯えたように肩を竦められて動きを止めた。
その手を何事もなかったように引き、代わりに袋から小さなパンを取り出す。
「腹、減ってるだろ?」
ニルスの視線がパンへ釘付けになった。
けれど、すぐには手を伸ばさない。
「食べても、怒らない?」
「そのために買ってきたんだ」
恐る恐る差し出された両手へ、ルッツはパンを載せる。
ニルスは夢中で齧りついた。
「ゆっくり食べろ。急にたくさん食うと腹が痛くなるぞ」
ルッツが声をかけても、口へ運ぶ速さは変わらない。
マインが水を渡そうとすると、ニルスは食べかけのパンを服の内側へ隠した。
「取らないよ」
「……後で食べる」
「まだあるぞ」
ルッツが袋を見せる。
けれどニルスは、隠したパンを離そうとしなかった。
「取らないって言ってるだろ。好きにしろ」
ルッツはそれ以上何も言わず、マインへ目配せする。
今すぐに信じてもらえるとは、二人とも思っていなかった。
その夜、ニルスは二人の寝台で眠った。
一人で眠れると言い張ったのに、灯りを消した途端、マインの服を強く掴んで離さなくなったからだ。
「……オレの寝る場所がない」
寝台の端で、ルッツがぼやく。
「ニルスはこんなに小さいんだから、三人でも寝られるよ」
「お前の寝相を考えろ。夜中に蹴り出されるのはオレだぞ」
「失礼な。わたしの寝相は悪くないよ」
「どの口が言ってるんだ」
二人の間に横たわったニルスが、目を閉じたまま小さく笑った。
その笑い声を聞いて、ルッツとマインは顔を見合わせる。
ニルスが笑ったのは、それが初めてだった。
けれど真夜中になると、再び熱が上がった。
「熱い……お母さん……」
苦しそうに身を捩るニルスへ、マインは魔術具を握らせる。
「あつい、怖い……」
「大丈夫。ここにいるよ」
「置いていかないで……」
「置いていかない」
何度繰り返しても、ニルスの呼吸はなかなか落ち着かなかった。
マイン自身の顔色まで悪くなっていくのを見て、ルッツがその肩を抱く。
「マイン、代われ」
「でも――」
「お前まで熱を出したら、ニルスが怖がるだろ」
ルッツはニルスの小さな手ごと魔術具を握った。
「ニルス。聞こえるか?」
薄く目が開く。
「……ルッツ兄ちゃん?」
「そうだ。マインもオレもここにいる。朝になってもいる。だから寝ろ」
「本当に?」
「商人は嘘を吐かない」
「嘘。商人は、上手に嘘を吐くんだって……」
思いがけない返事に、ルッツは眉を上げた。
「誰に聞いた?」
「お母さん」
「……よく知ってるな」
ルッツは困ったように頭を掻く。
「じゃあ、約束する。朝になっても、オレ達はここにいる」
「約束?」
「ああ」
「破ったら?」
「何でも一つ、ニルスの言うことを聞く」
「ルッツ! 簡単にそんな約束をしちゃ駄目だよ」
「破らなきゃいいんだろ」
ニルスは二人を見比べると、ようやく目を閉じた。
右手でマインの指を、左手でルッツの指を握ったまま。
翌朝、目を覚ましたニルスの両隣には、約束どおり二人がいた。
◇
最初の数日は、何をするにも怯えていた。
食事を出せば、必ず少しだけ服の中へ隠した。
水を使って体を拭こうとすれば、叩かれると思ったのか頭を抱えて蹲った。
着替えを渡せば、後で返せと言われるのではないかと何度も尋ねた。
マインは、そのたびに同じ言葉を繰り返した。
「これはニルスの分だよ」
食卓の端へ、小さな籠を置く。
中にはパンと干した果物が入っている。
「ここにあるものは、全部ニルスが食べていいの。なくなったら、また入れるから」
ニルスは信じられないものを見るように籠を見つめた。
次の日、籠の中身は一つも減っていなかった。
その次の日、干した果物だけがなくなった。
さらに次の日には、服の中へパンを隠さなくなった。
十日もすると、ニルスは朝起きたら寝台を整え、食卓を拭くようになった。
「働かなくても、ご飯は出すよ」
マインが言うと、ニルスは首を横に振る。
「働かないと、ここにいちゃ駄目だから」
マインが言葉を失う。
代わりに、ルッツがニルスの前へ木箱を置いた。
「なら、これを仕事にするか」
中には裁断前の紙と、紐と、糊が入っている。
「紙を大きさごとに分けろ。破れた物はこっちだ」
「これをやれば、ここにいていい?」
「違う」
ルッツはニルスと目線を合わせる。
「ここにいることと、仕事は別だ。ニルスは何もしなくてもここにいていい。でも、仕事をすれば自分で使える金がもらえる」
「ぼくのお金?」
「ああ。何を買うかは、マインに相談するなよ。全部、本にされる」
「ちょっと、ルッツ!」
ニルスが声を立てて笑う。
その日から、ニルスは工房で簡単な手伝いを始めた。
マインが文字を教えると、ニルスは驚くほど真剣に覚えた。
最初に書けるようになったのは、自分の名前。
二番目が、マイン。
三番目が、ルッツだった。
◇
半月が過ぎても、ニルスの母親は現れなかった。
ギルベルタ商会を通して周辺の店や門へ問い合わせても、手掛かりはない。
そのことを伝えるのは、ルッツの役目になった。
「……お母さん、ぼくを捨てたの?」
問いかけられても、ルッツには答えられない。
亡くなったのかもしれない。戻れない事情があるのかもしれない。本当に子どもを置いて逃げたのかもしれない。
わからないことを、都合の良い言葉で誤魔化したくはなかった。
「わからない」
正直に答えると、ニルスは俯いた。
「じゃあ、ぼく、どこへ行くの?」
「どこにも行かないよ」
すぐに答えたのは、マインだった。
ニルスが顔を上げる。
「でも、お母さんが来なかったら……」
「来なくても、ここにいればいい」
「いつまで?」
マインはルッツを見る。
ルッツは一度頷くと、ニルスの前へ膝をついた。
「ニルスがここにいたいと思う間は、ずっとだ」
「大人になるまで?」
「ああ」
「洗礼式の後も?」
「もちろん」
「成人しても?」
「その頃には、自分でどこに住むか決めろ。でも、帰ってきたけりゃ、いつでも帰ってくればいい」
ニルスの唇が震える。
「ぼくが、熱い病気でも?」
「ああ」
「ご飯をいっぱい食べても?」
「その分、オレが稼ぐ」
「仕事を失敗しても?」
「やり直せばいい」
「夜に泣いても?」
「マインが抱き締める」
「ルッツは?」
「オレもいる」
ぽろりと涙が落ちた。
マインが手を広げると、ニルスはその胸へ飛び込んだ。
「ここにいたい……」
「うん」
「ずっと、ここにいたい」
「うん。いていいよ」
マインはニルスの細い体を抱き締める。
その背中へ、ルッツの腕も回された。
「三人で暮らそう、ニルス」
それからさらに半月が過ぎた。
ニルスの頬は少しずつ丸くなり、夜中に熱を出すことも減った。魔術具へ魔力を流す時間も自分でわかるようになり、苦しくなる前にマインへ伝えられるようになった。
食卓の籠から食べ物がなくなれば、隠さずに「お腹が空いた」と言うようになった。
夜は一人でも眠れるようになったが、怖い夢を見た時だけ、枕を抱えて二人の寝室へ来た。
ある日の夕方。
仕事を終えたルッツとマインが家の扉を開けると、奥からニルスが駆けてきた。
「ルッツ、マイン!」
以前より血色の良くなった顔に、満面の笑みが浮かんでいる。
「おかえり!」
二人は一瞬、足を止めた。
ルッツがマインを見る。
マインの金色の瞳は、すでに涙で潤んでいた。
「ただいま、ニルス」
しゃがんで腕を広げると、ニルスが勢いよく飛び込んでくる。
その小さな体ごとマインを抱き留めながら、ルッツも答えた。
「ただいま」
待つ者のいなかった家は、三人が帰る場所になった。
まだ誰も、「父さん」や「母さん」とは呼ばない。
けれど洗礼式を迎えるよりもずっと前から、三人はもう、家族になり始めていた。
