ただ一人の空白

「……ローゼマイン」

低く呼びかける声に、ローゼマインはゆっくりと目を開いた。

見慣れぬ天蓋。薬草の匂い。自分を覗き込む、ひどく整った顔立ちの男性。

淡い金色の瞳には、普段の彼からは到底考えられないほど切迫した光が浮かんでいる。

「気分はどうだ。痛むところは? 吐き気はないか? 魔力の流れに違和感は――」

次々に浴びせられる問いに、ローゼマインは目を瞬いた。

男性の手が頬に触れようと伸びてくる。

知らない人に触れられる。

そう思った瞬間、ローゼマインは反射的に身を引いた。

「……あの、どなたでしょう?」

部屋の空気が凍りついた。

男性の手が、行き場を失ったまま止まっている。

後ろに控えていたコルネリウスが息を呑み、リーゼレータは両手で口元を覆った。ハルトムートでさえ、言葉を失っている。

「ローゼマイン」

先ほどよりも低い声だった。

「冗談はやめなさい」

「冗談ではございません」

ローゼマインは警戒しながら男性を見つめた。

エーレンフェストの色ではない、アレキサンドリアの紋章が入った濃紺の衣装。最高品質の布地。領主一族に近しい者であることは間違いない。

だが、記憶をどれほど探っても、この男性に関するものだけが見つからなかった。

「コルネリウス兄様、この方は?」

自分には向けられなかった信頼のこもった視線が、コルネリウスへ向けられる。

フェルディナンドの表情から、すっと感情が消えた。

「ローゼマイン様。この方は――」

「黙れ」

フェルディナンドの声に、コルネリウスが口を閉ざす。

彼は寝台の傍らに置かれていた椅子へ腰を下ろした。優雅な動作だったが、肘掛けをつかむ指先が白くなっている。

「質問に答えなさい。君の名前は?」

「ローゼマインです。アウブ・アレキサンドリアで、エーレンフェストの領主一族の養女です」

「家族は?」

「下町の家族と、神殿の皆と、養父様達、それから……」

名前を挙げるたび、フェルディナンドの眉間の皺が深くなっていく。

ギュンター。エーファ。トゥーリ。カミル。ルッツ。ベンノ。フラン。ヴィルマ。ジルヴェスター。フロレンツィア。シャルロッテ。

忘れている者がいないか確かめるように、一人ずつ丁寧に挙げていく。

けれど、最後まで彼の名は出なかった。

「神殿で、君を教育した者は?」

「神官長……だったと思います」

「名は?」

ローゼマインは額に手を当てた。

青色巫女見習いとして神殿へ入ったことは覚えている。儀式の手順を叩き込まれたことも、工房の暴走を止められたことも、虚弱な体を何度も救われたことも。

けれど、その人物の顔も声も、名前も思い出せない。

そこだけが、不自然に白く抜け落ちていた。

「……わかりません」

小さく答えると、フェルディナンドが息を止めた。

「では、ユレーヴェの素材を採集したのは誰だ?」

「皆に助けていただきました」

「君が二年間眠っている間、領主候補生としての居場所を守った者は?」

「それは……」

「貴族院で君の暴走を止め、王族との交渉を行い、君が残した事業を整えたのは?」

問いを重ねるたびに声が鋭くなる。

ローゼマインは困惑して肩をすくめた。

「申し訳ございません。思い出せないのです」

フェルディナンドが立ち上がった。

椅子が大きな音を立てて倒れる。

周囲の者が一斉に身構えたが、彼自身はその音にも気づいていないようだった。

「思い出せない、だと?」

「フェルディナンド様、ローゼマイン様は病み上がりです!」

リーゼレータの制止に、彼は鋭く振り返った。

「私がそれを理解していないとでも思うのか!?」

怒鳴り声が室内に響いた。

ローゼマインは驚いて目を見開く。

その顔を見た瞬間、フェルディナンドは唇を引き結んだ。何かを必死に押し殺すように目を伏せ、ゆっくりと息を吐く。

「……全員、退室しなさい」

「しかし――」

「二度言わせるな」

側近達は不安そうにローゼマインを見つめた。けれど、彼女が小さく頷くと、一人ずつ部屋から出ていった。

扉が閉まる。

静寂の中、フェルディナンドは倒れた椅子を戻した。

今度は寝台から少し離れた場所に置いて腰を下ろす。ローゼマインが警戒したから、距離を取ったのだろう。

「わたくしと、どのようなご関係なのですか?」

フェルディナンドは答えなかった。

代わりに自分の胸元から鎖を引き出す。そこには、見覚えのある魔石が下がっていた。

ローゼマインが婚約者へ贈った魔石だった。

「……わたくしの魔力を感じます」

「ああ」

「では、貴方がわたくしの婚約者なのですか?」

その言葉に、フェルディナンドの顔がわずかに歪んだ。

「書類の上ではな」

「書類の上では?」

「君が私を婚約者として認識できないならば、それ以上の意味があるとは言えまい」

冷静な口調だった。

だが、膝の上で組まれた両手には力が入り、指先が震えている。

ローゼマインは不思議に思った。

この人は恐ろしい。威圧感があり、怒らせてはいけない人物だと本能が告げている。

それなのに今は、ひどく傷ついているように見えた。

「わたくしは、貴方を嫌っていたのでしょうか?」

「……何故そう思う?」

「わたくしが貴方だけを忘れているからです」

フェルディナンドが完全に動きを止めた。

次の瞬間、金色の瞳に激しい感情が浮かぶ。怒りか、悲しみか、それとも恐怖なのか、ローゼマインには判別できなかった。

「違う」

絞り出すような声だった。

「それだけは、違う」

「フェルディナンド様?」

初めて名前を呼ぶと、彼の肩がわずかに揺れた。

「君は私を家族にすると言った。私の望みを叶えると。アレキサンドリアの領地ごと守ると誓った私に、自分の家族になれと言ったのだ」

早口になっていく。

いつもの彼を知る者が見れば、目を疑っただろう。

「私の研究室を用意し、図書館を作り、隠し部屋を共有すると言った。私のマントに刺繍をすると言ったのも君だ。私を置いていかないと、何度も――」

突然、言葉が途切れた。

フェルディナンドは自分が何を口走ったのか悟ったように、片手で顔を覆った。

耳がうっすらと赤い。

「……忘れなさい」

「すでに忘れているから、このようなことになっているのですけれど」

思わずそう返すと、指の隙間から金色の目がこちらを睨んだ。

怖い。

けれど、先ほどよりも少しだけ見慣れた気がした。

ローゼマインは寝台から身を乗り出し、俯く彼の袖をそっとつかんだ。

フェルディナンドが息を呑む。

「今のわたくしには、貴方との思い出がありません」

彼の顔から血の気が引いていく。

「ですが……貴方が嘘をついているようには思えません。それに、わたくしが目覚めた時、一番近くにいたのは貴方でした」

「それが何だ」

「わたくしをずっと心配してくださっていたのでしょう?」

返事はなかった。

けれど、袖をつかむローゼマインの手に、フェルディナンドの手が重ねられた。

触れてもよいか確かめるような、ひどく慎重な動きだった。

「……君が思い出すまで待とう」

静かな声が震えている。

「思い出さなくても、構わない」

その言葉とは裏腹に、ローゼマインの手を包む指には縋るような力が込められていた。

「もう一度、最初から君の信頼を得る。それだけだ」

「ずいぶんと自信がおありなのですね」

「当然だ。私は君の好みも、弱点も、行動原理も、君自身より正確に把握している」

「少し怖いです」

「今さらだな」

ようやく、フェルディナンドの口元にかすかな笑みが浮かんだ。

けれどローゼマインが袖から手を離そうとすると、その笑みは瞬時に消えた。

重ねられた手に、再び力が入る。

「……どちらへ行く?」

「お水を飲みたいだけですが」

「私が用意する。君はここにいなさい」

フェルディナンドはそう言ったものの、手を離そうとしない。

「フェルディナンド様。手を離していただかなければ、お水を取れませんよ」

「側近を呼ぶ」

「皆を追い出したのはフェルディナンド様でしょう?」

沈黙が落ちた。

金色の瞳が泳ぐ。

ローゼマインは、自分の記憶にはいない婚約者を見つめた。

どうやらこの人は、自分が思っていたよりもずっと余裕がないらしい。

そして――何故だかわからないけれど、それが少しだけ可愛いと思えた。

ただ一人の空白・後編

それから三日が経った。

ローゼマインの記憶は戻らなかった。

フェルディナンドは宣言どおり、最初から彼女の信頼を得ようとした。

食事の量を確認し、薬の時間を管理し、体調を細かく尋ね、少しでも顔色が悪くなれば問答無用で寝台へ戻す。側近が準備した食事には厳しい目を光らせ、薬は必ず自分で調合したものを飲ませた。

「まるで以前から、わたくしの主治医だったようですね」

ローゼマインが笑うと、フェルディナンドの手が止まった。

「……そうだ」

それだけ答えて、また薬を量り始める。

時折、このようなことがあった。

ローゼマインが何気なく口にした言葉に、フェルディナンドが傷ついたような顔をする。

けれど、彼は決して責めなかった。

思い出せとも、以前のように振る舞えとも言わない。ただ無表情で全てを飲み込み、これまでと変わらないように振る舞おうとする。

その試みが全く成功していないことには、本人だけが気づいていないらしい。

「フェルディナンド様」

「何だ?」

「昨夜はお休みになりましたか?」

「君には関係ない」

即答だった。

ローゼマインは彼の目の下にある薄い隈を見つめた。

窓際の机には、記憶に関する魔術書と調合器具が積み上げられている。夜中に目を覚ますたび、その机に彼の姿があった。

「関係はあります。わたくしのために調べてくださっているのでしょう?」

「君の記憶に欠落がある以上、原因を突き止めるのは当然だ」

「でも、眠らなければフェルディナンド様が倒れてしまいます」

「その程度で倒れるほど軟弱ではない」

「わたくしが心配なのです」

フェルディナンドが黙った。

ほんの一瞬、信じられないものを見るように目を見開き、すぐに視線を逸らした。

「……誰にでもそのようなことを言うのか?」

「はい?」

「ハルトムートにも、コルネリウスにも、同じように心配だと言うのかと聞いている」

声音は平坦なのに、何故か機嫌が悪い。

「もちろん、皆が倒れそうなら心配しますけれど……」

ローゼマインがそう答えた瞬間、フェルディナンドの眉間に深い皺が刻まれた。

「そうか」

「でも、今はフェルディナンド様のお話をしています」

「もうよい」

「よくありません。こちらを向いてくださいませ」

「薬の調合中だ。邪魔をするな」

完全に拗ねている。

ローゼマインは何となくそれがわかってしまい、自分でも不思議に思いながら小さく笑った。

「何がおかしい?」

「いえ。フェルディナンド様にも、このようなお顔ができるのだと思って」

「どのような顔だ」

「少し可愛らしいお顔です」

薬を混ぜていたフェルディナンドの手が止まった。

ゆっくりと振り返る。

「……君は、記憶を失っても全く変わらぬな」

低い声には呆れと苛立ちが含まれていたが、口元はほんの少し緩んでいた。

その日の午後、記憶を失った原因が判明した。

事故の際に壊れた魔術具から放たれた魔力が、ローゼマインの記憶を消したのではなく、一部の記憶へ蓋をしていたらしい。

「欠落している記憶に共通する魔力を追えば、蓋を壊せる可能性があります」

調査結果を説明したハルトムートの視線が、フェルディナンドへ向けられた。

「ローゼマイン様が失っているのは、フェルディナンド様に関係する記憶のみです。つまり、フェルディナンド様の魔力を流し込み、記憶の中に残っている魔力と共鳴させれば――」

「却下だ」

フェルディナンドは即座に言った。

「何故ですか?」

ローゼマインが尋ねると、彼は険しい表情でハルトムートを睨んだ。

「成功する保証がない。異なる魔力を無理に流せば、魔力の反発によって君の体に負担がかかる。記憶が戻るどころか、他の記憶まで損なわれる可能性もある」

「けれど、フェルディナンド様とわたくしの魔力は似ているのでしょう?」

「今の君には関係ない」

突き放すような言い方だった。

しかしローゼマインには、それが拒絶ではないとわかっていた。

怖いのだ。

自分を取り戻すために、ローゼマインが傷つくことが。

「わたくしは試してみたいです」

「許可しない」

「わたくし自身の記憶ですよ?」

「君の安全に関わることだ」

「わたくしがこのままでも、フェルディナンド様は本当によいのですか?」

フェルディナンドの顔が強張った。

長い沈黙の後、彼は絞り出すように答えた。

「……君が生きているならば、それでよい」

ローゼマインは胸が苦しくなった。

彼がどれほど自分との記憶を取り戻してほしいと願っているのか、この三日間で十分にわかっている。

それでも彼は、自分の望みよりローゼマインの安全を選ぶ。

おそらく、以前からずっとそうだったのだ。

「わたくしは、よくありません」

「ローゼマイン」

「貴方と過ごした時間を、なかったことにしたくありません」

金色の瞳が揺れた。

ローゼマインは彼の手を取り、自分の胸元へ引き寄せた。

「お願いします。わたくしに、貴方のことを思い出させてくださいませ」

フェルディナンドは苦しそうに目を閉じた。

やがて、諦めたように息を吐く。

「……君は昔から、一度決めると聞く耳を持たぬ」

「以前のわたくしもそうだったのですか?」

「今よりもひどかった」

調合室には、最低限の側近だけが残された。

ローゼマインは長椅子へ横たわり、フェルディナンドが傍らに座る。

「少しでも苦しければ、すぐに手を離しなさい」

「はい」

「我慢するな。些細な違和感でも口にしろ」

「わかりました」

「本当にわかっているのか?」

「もう、フェルディナンド様は心配性ですね」

呆れたように言った瞬間、胸の奥がちくりと痛んだ。

今と同じ言葉を、以前にも口にした気がする。

フェルディナンドがローゼマインの手を握った。

指を絡め、掌をぴたりと重ねる。

ひどく慣れた動作だった。

「始めるぞ」

彼の魔力が、ゆっくりと流れ込んでくる。

温かい。

初めて触れたはずなのに、体の奥深くまで知っている魔力だった。

懐かしいと思った瞬間、白く閉ざされていた場所に亀裂が走った。

暗い神殿の隠し部屋。

積み上げられた木札。

苦い薬。

「君は馬鹿か」と呆れる声。

工房を暴走させて叱られたこと。

虚弱な体を抱き上げられたこと。

祈念式へ向かう騎獣の上で、マントに包まれたこと。

「……神官長」

ローゼマインの唇から、掠れた声が零れた。

フェルディナンドの魔力が大きく揺れた。

「ローゼマイン?」

記憶が押し寄せる。

貴族院から送った報告書。

一人で抱え込まないようにと贈ったお守り。

別れの宴。

渡された名捧げの石。

アーレンスバッハへ行ってしまう背中。

助けなければと駆け抜けた国境門。

毒に倒れた彼。

「わたくしが守ります」と伸ばした手。

望みを叶えたいと、家族になりたいと、必死に伝えた言葉。

婚約の魔石。

領地ごと守るという約束。

彼のマントに刺繍をさせてほしいと願った、あの日。

「フェルディナンド様……!」

ローゼマインの目から涙が溢れた。

堰を切ったように流れ出す。

「フェルディナンド様、フェルディナンド様……!」

呼ぶたびに記憶が戻る。

彼がいつも自分を守ってくれたこと。

自分が彼を守りたいと願ったこと。

図書館よりも、家族よりも、何よりも優先して助けに走った、たった一人の人。

「思い、出しました」

フェルディナンドは動かなかった。

ローゼマインの手を握ったまま、呼吸さえ止めたように固まっている。

「……証明しなさい」

ようやく出た声は、震えていた。

「何を証明すればよいのですか?」

「君が本当に思い出したのかどうか、私には判断できぬ」

ローゼマインは涙を拭いながら考えた。

「では、フェルディナンド様は隠し部屋でわたくしの頬を引っ張ります」

「それは証明にならぬ」

「わたくしが図書館へ突撃しようとすると、首根っこをつかんで止めます」

「他の者でも予想できる」

「わたくしのお守りを胸元に下げていて、死にかけた時にはわたくしの名前を呼びました」

フェルディナンドの眉が動いた。

「そして、アレキサンドリアの礎を染めたわたくしに、婚約の魔石をくださいました」

「……まだ足りぬ」

「『アレキサンドリアの領地ごと君を守る』と」

フェルディナンドが目を伏せた。

ローゼマインは握られた手に力を込める。

「わたくしは、貴方のマントに刺繍をさせてほしいと願いました。貴方を家族にしたいと言いました。貴方の望みを叶えたいと――」

声が詰まった。

「そして、もう二度と、貴方を一人にはしないと決めたのです」

フェルディナンドの顔が歪んだ。

それは、ローゼマインがこれまで一度も見たことのない表情だった。

安堵と苦痛と喜びが入り混じり、いつもの冷静さなどどこにもない。

次の瞬間、強く腕を引かれた。

ローゼマインの体が起こされ、そのままフェルディナンドの腕の中へ閉じ込められる。

「フェルディナンド様?」

返事はなかった。

ただ、背中に回された腕が痛いほど強い。

肩口に押しつけられた彼の額が熱かった。

「苦しいです」

「……少し黙っていなさい」

低い声が掠れている。

「でも――」

「今だけだ」

その一言に、ローゼマインは口を閉ざした。

フェルディナンドの体から、少しずつ力が抜けていく。

三日間、一度も眠らずに張り詰め続けていた糸が、ようやく緩んだようだった。

ローゼマインは彼の背中へ腕を回す。

幼い頃、自分を安心させてくれたマントの中と同じ匂いがした。

「ただいま戻りました、フェルディナンド様」

彼の腕に再び力が入った。

「……遅い」

「申し訳ございません」

「本当に、君はいつも私を待たせる」

「でも、きちんと戻ってきたでしょう?」

しばらく沈黙が続いた。

やがて、ローゼマインの肩口で小さな吐息が落ちる。

「おかえり、ローゼマイン」

その声は、ひどく穏やかだった。

ローゼマインが顔を覗き込もうとしても、フェルディナンドは腕を緩めない。

「そろそろ離してくださいませ」

「断る」

「もう記憶は戻りましたよ?」

「再び失わないという保証はない」

「このままでは夕食が食べられません」

「後にしなさい」

「本も読めません」

「一日くらい我慢しろ」

「横暴です」

ローゼマインが抗議すると、フェルディナンドはようやく顔を上げた。

金色の瞳にはまだ不安の名残があった。

けれど今度は、ローゼマインが知っている彼だった。

「フェルディナンド様」

「何だ?」

「わたくしは、どこにも行きません」

彼は目を細めた。

信じたいのに、まだ信じきれないような顔をしている。

ローゼマインは彼の頬に手を添え、はっきりと繰り返した。

「貴方を置いていったりしません。わたくし達は家族になるのでしょう?」

フェルディナンドはその手に自分の手を重ねた。

「……ああ」

今度こそ、彼は心から安堵したように微笑んだ。